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井上尚弥選手のパンチ力はなぜ強いのか?他の選手との違いは?
皆さま、こんにちは。
ラクエルの鶴田です。
先日の井上尚弥vsスティーブ・フルトンの試合は圧巻でしたね。
フルトン選手も強いチャンピオンでしたが、終始、井上選手が圧倒して階級の壁を一蹴。世界中がその強さに驚きました。
井上選手はテクニックも優れていますが、フィジカル面の強さ・安定感は特に群を抜いていて、そこから生まれるパンチ力は破格です。
私もその昔プロボクサーのライセンスと取ったことがあり、フィジカルトレーナーの視点も持ちつつ沢山のボクサーを見てきましたが、井上選手のようにあらゆるタイミング・体制・角度から強いパンチを打ち込めるボクサーはほとんどいません。
思いつくのは、全盛期のマイク・タイソンくらいでしょうか…
井上選手の練習やフィジカルトレーニングの動画はネット上でも見ることができますが、どれも惚れ惚れする動きで、ボクシング以外のスポーツにも共通してポイントになる点があります。
今回はそんな井上選手の強さの秘密についてお伝えしたいと思います。
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【目次】
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1.パンチ力を生む”足を止める力“とは
2.”足を止める力”を高める方法
3.強さの最大の秘訣は”正確性の追求”
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パンチ力を生む”足を止める力”とは
井上選手の動画を見る中で、私が一番すごいと思ったのは以下のシーンでした。
全力でパンチを打ち込んでいますが、下半身がピタッと地面に吸い付いていて、打ち終わった後も体が一切ブレません。
そして、一瞬で全身のパワーを拳に伝えきっている様子も伺えます。
トップボクサーの中でも、ここまでの精度で強いパンチを打てる選手はあまりいないのではないでしょうか。
ちなみに、打つ・投げるといったスポーツ動作において、共通した以下のメカニズムがあります。
- 利き脚で地面を蹴り出して直線的な力を生む
- 軸足でストップを掛けて直線的な力を回転力に転換する
- 回転力が打つ・投げる等のパワーになる
スポーツのための“脚力”というと、1の地面を蹴り出す力が注目されがちですが、打つ・投げる・方向転換をするといった動作では、それ以上に2のストップする力が重要になります。
正確で強いストップを掛けることができると、作用反作用の法則やテコの原理といった運動力学をより有利に使うことができ、掛け算的にパワーを増すことができるのです。
井上選手も先ほどの動画のように、軸足をピタッと止めて、脚力を無駄なく体の回転力に転換することでパンチ力を増幅させています。
(…井上選手の場合は地面を蹴り出す右足もバチッと止まっていて、左右のそれぞれの脚の役割を極限まで高めている様子が伺えます)
例えば、世界のトップスプリンターの走る姿をカッコイイ・美しいと感じるように、人並み外れたパフォーマンスには芸術性のようなものがあります。
この井上選手のパンチも同じで、このシーンを何度も見返したくなるような気持ち良さがあるのは、私だけではないと思います。
“足を止める力”を高める方法
それでは井上選手はどのようにして、この足止める力を手に入れているのでしょうか。
井上選手が行っているフィジカルトレーニングの動画にも、いくつか有効と思うものがありましたのでピックアップしてみたいと思います。
1.バーベルを使ったジャンプ動作
これは瞬発力を鍛える要素もありますが、バーベルで負荷を掛けながらこのような動作をすると、足と止めるために必要な、着地の角度・踏ん張りの強さ・力を入れるタイミングを一度に鍛えることができます。
2.片足でのジャンプ動作
これも様々な意味合いがある種目ですが、片脚だけでの着地動作は負荷とタイミングのレベルがより高くなるので、対応できる状況の幅を広げることができます。
3.ラダーを使ったクイックネス動作
この種目はクイックネスを高めるトレーニングですが、高速動作の中でも正確性に接地&ストップをする能力が求められるので、速く正確なステップにつながります。
足を止める力の土台としては、ベーシックな筋トレで
- 基礎的な脚力
- 3関節(股関節・膝関節・足関節)の同調性
を高めることが必要で、それに加えてこのような種目を行うことでより競技に直結する能力を高めることができます。
強さの最大の秘訣は”正確性の追求”
井上選手は何においても負けず嫌いだと聞きます。
負けず嫌いは裏を返すと、努力をすれば必ず上達して勝てると信じている、ということだと思います。
そしてその自信を持てるかどうかは、極限まで成果を追求する姿勢があるかどうかに支えられているのではないでしょうか。
我々トレーナーも先ほどのラダートレーニングのような種目を指導する時に、速く動くためのポイントは何かということを自分の体を動かして確認します。
足を踏み込む角度はどうか、力のアクセントはどのタイミングで入れるか、体幹のポジションはどこに置くとベストか等、あらゆる要素の質が高まって初めてあのようなロスの無い速い動きができるようになります。
下の画像は、反復横跳びの切り替えし時のものですが、この「止める」と「ズレる」の数センチの差が、結果として顕著な回数差に現れます。
高速で動いていると僅かな違いにしか見えませんが、このような差がボクシングではパンチ力の質の差になり、バスケやサッカーなどの球技では相手をかわしたりディフェンスをする時のスピードの差になります。
冒頭のミット打ちやフィジカルトレーニングの動画を見ると、井上選手はあらゆる練習において「もっと正確に」「もっと高い質で」ということを極限まで追求する意識を持っていて、そこが他の選手より抜きん出ているのだと思います。
そうでないとこのような動きには到達できないはずで、この正確性と質をとことん追求する感覚こそが井上選手の一番の強さの秘訣ではないかと思います。
ちなみに、動作の正確性は生まれながらのものではなく、反復練習の精度の差によってできるものです。
一回一回を集中して丁寧に反復練習を重ねて、高い到達点を目指すことができれば、誰にで勝つチャンスはあるのです。
〇 ● ○ ●
井上選手が精度の高い動作から生み出す、パンチ力、スピード、ステップワーク、試合を有利に運ぶ一瞬のポジショニングは見ていて感動すら覚えます。
強さで魅了するとは、まさにこのことです。
次の階級を獲ればメイウェザーに並ぶ5階級!
更にもうひとつ行けばパッキャオに並ぶ6階級!
ぜひこれからも最強のフィジカルとそれを支えるメンタルで、私たちをワクワクさせて欲しいと思います。
私たちもそれぞれのフィールドで、井上選手の成果を追求する姿勢を見習いつつ、コツコツとレベルアップしていきましょう!