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親も子も知っておくと楽になる、思春期の脳について
こんにちは。
ラクエルの鶴田です。
トレーナーを長年やっていると、筋肉のことだけでなく心理学や脳科学についても学ぶ機会が増えてきます。カウンセラーのようなことは行わないまでも、体づくりのヒントになることが多く、非常に興味深い世界です。
その中でも思春期の脳の変化と、そこから起こる感情の変化は特別で、成長を加速させる一方で、子供にとっても親にとっても多くの悩みが生まれる時期です。
私自身も高校を早々と中退して、苦労した時期もありました。
振り返ってみれば人生の良い糧となっていますが、渦中にいるときはやはり大変ですし、子供の頃の葛藤がその後の人生に尾を引いてしまうこともあります。
思春期の問題はすぐに解決できるものではありませんが、この時期に子供の脳の中で何が起きているのかを理解しておくだけでも気持ちが楽になる側面もあります。
今回は、思春期の脳について、私がこれまで学んだことや、ジムに通う若者たちと触れ合う中で感じてきたことをお伝えしたいと思います。
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【目次】
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1.思春期の意味とは
2.思春期に起こる脳の変化
・側坐核と偏桃体
・思春期における親の役割
3.思春期の終わり
・ミエリン化
・思春期のうちにやっておくべきこと
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思春期の意味とは
人生全体を通してみると、思春期とは親に擁護される立場から、子を擁護する側へと立場が変わる過渡期にあたります。
子供の頃は、大事なことを親が判断し、生きる上での問題も親が解決してくれます。
しかし、やがては自分で全ての物事を判断し、子供を守る能力や強さを身に付けなければなりません。
思春期とは、親が作った安全な柵に守られて生きてきた子供たちが、少しずつ外の世界を知り、新しい場所に自分の力で柵を作る能力を養うための準備期間なのです。
時々やんちゃなこともしながら、将来は経営者を目指しているHくん
この若者の探求心や冒険心は時にリスクも伴いますが、人類の歴史全体を通してみると、その行動力が、新たな土地を切り開くことや新しい技術を生むことに貢献した側面もあるそうです。
つまり社会全体の発展にも、子供自身の人生を切り開くためにも、思春期は必要なものなのです。
しかし、当然のことながら子供にはそこまでの自覚は無く、将来自身の子供を守るためにどの程度の能力やモラルが必要で、どの程度の努力をするべきなのかも想像はつきません。
そのような中で、脳は着々と大人になるための準備を進めていくため、思春期特有の葛藤や抑えられない衝動が生まれます。
親は子供のために作ってきた柵が壊されていく寂しさを感じ、子供は柵を壊すことで擦り傷を負う痛みを感じる。
そんな思春期の悩みを生む脳の変化とは、どのようなものでしょうか。
思春期に起こる脳の変化
思春期の子供に起こる感情の変化は、そのほとんどが性ホルモンの影響によるものです。
性ホルモンは、12歳前後から急激に分泌が増えて脳に働きかけます。
その変化が急なため、子供は自分をコントロールできない状況に悩み、親は子供が何を考えているのか理解できない不安に駆られます。
その変化の背景には次のようなメカニズムがあります。
側坐核と偏桃体
思春期の脳には、性ホルモンによって強く影響を受ける2つの部位があります。
それが、側坐核(そくざかく)と偏桃体(へんとうたい)です。
どちらも脳の中心部分にあるのですが、側坐核は意欲や欲求を高める働きがあります。
側坐核の働きによって、思春期の子供は、○○をしたい、○○が欲しいというこだわりが強くなったり、それを今すぐにでも実行に移したいという衝動に駆られます。
親からすると、身の丈に合わないことをやろうとしていたり、意味のないことに執着しているように映るのですが、これは子供が新たな経験を通して、自分の可能性や見える世界を広げるための衝動です。
例え失敗したとしても、そこから物事の限界や可能性を学ぶことができるため、合理的でないことであっても否定せず認めてあげることが子供にとって成長の糧になります。
一方で偏桃体には、恐怖、悲しみ、怒りなどの負の感情の振れ幅を大きくする作用があります。
思春期の脳は新しい神経ネットワークをどんどん広げていくことで学習能力を向上させるのですが、一方で偏桃体が生む負の感情も増幅させてしまいます。
そのため、親の些細な口調、表情、言葉、雰囲気に対して過敏に反応するようになるのです。
親としては、いつもと同じように接しているつもりでも、ちょっとした言葉の選択や口調、あるいは疲れた雰囲気やイライラしている空気が、子供にとっては神経を逆なでするものに映ります。
その程度は、親が2~3くらいだと思っていることが、子供にとっては100に映ると思っておくと良い程、過敏なものです。
意味もなく突然怒り出したように見えたり、頑なに殻に閉じこもっているように見えることも、実は、親の不安が子供を不安にさせたり、親のイライラが子供をイライラさせているという側面があるのです。
このように「この子が何を考えているのか分からない」という状況にちゃんとした理由があります。
思春期における親の役割
思春期の脳は、親にとっても子にとっても扱いづらい面がありますが、その作用に後押しされながら、思春期の子供たちはそれまでの環境や価値観から飛び出して、一人立ちするための準備を進めて行きます。
そのように子供が変化していく中で、当然、親の役割も変わってきます。
守ってあげる側だったものが、否定されて超えられていく側に。
手を引いて世界を広げてあげる側だったものが、見守るだけの側になります。
先ほどの側坐核の働きによって、子供は年齢が進むにつれて、段々と身の丈を超えるチャレンジをしたくなります。
それはリスクを伴う事でもありますが、子供が何かを望んだ時は可能な限り応えてあげることで、成功も失敗も含め成長することができます。
仮に実現できないことや許容できないことであっても、子供の思いに耳を傾け、理解することが大切です。
理解されたことが伝われば、子供は自然と次の何かを探し始め、可能性の芽は育っていきます。
また、本来子供は本当に危険なことや、やってはいけないことに対して、肝心なところでブレーキを掛ける自制心も持ち合わせています。
親は心配するだけではなく、子供を信頼し、適切に冒険や反発を許容してあげることが大切で、そのような親子関係が、いざという時にアクセルとブレーキを踏み間違えるための抑制になります。
子供の不満の種を日々小さくしながら、一歩下がってアシストすることが思春期の親に求められている役割です。
ちなみに、思春期の感情の起伏は、良い方向にも悪い方向にも大きくなります。
ただ、両者を比べるとマイナスの感情の方が勝るため、子供は明るく楽しい気分でいる時間よりも、落ち込んだりイライラしている時間が自然と長くなります。
それに加えて、子供は親が作った価値観から抜け出したいと本能的に感じているため、「親が嫌い」という感情は起こるべくして起こります。
ですので、過敏になっている感情を逆なでしないようにしながらも、この嫌われ役を引き受けてあげることも思春期の親の役割なのです。
ただ、親も人間なので、いつも明るく子供の後押しができるわけではありませんし、どんなに気を遣ってもぶつかることがあるのが親子です。
そういうぶつかり合いの中から、子供はどこまで言えば自分の気が済むのか、どこからが超えてはいけない一線なのかということも学びます。
むしろ、そんな風に子供が不安や怒りを家庭の中で出せる環境があることが大切で、負の感情をため込んでしまう方が後々の問題になります。
親にとっては大変な役割ばかりですが、子供が感性豊かに育つこと、チャレンジ精神を持って能力を伸ばしていくことは、親自身が一番望んでいることです。
なるべく大人の見栄を捨てて、全力で子供に向き合うスタンスを持つことができれば、最終的に子供は誤った解釈はしないものです。
いつになるかは分かりませんが、正しい努力はきっと素敵な恩返しとなって帰ってくるはずです。
思春期の終わり
そんな思春期にもやがて終わりがやってきます。
脳は時間を掛けながら成熟していき、側坐核や偏桃体の過剰な働きをコントロールできるようになっていきます。親は一安心、子供も制御不能な感情の起伏から解放されて、お互いが楽になります。
ただし、思春期はただ闇雲に通り過ぎれば良いものではなく、どのように過ごしたかが大切で、思春期が終わるまでにやっておくべきこもあるのです。
ミエリン化
脳の機能は大まかに言うと内側と外側の2つの領域に分かれています。
思春期特有の反応を引き起こす、側坐核と偏桃体は脳の内側にあります。これに対して理性的な判断する領域が脳の外側にあります。
子供の脳はまだ未熟で、内側で起こる感情の暴走を外側の理性で止めることができません。
しかし、脳の成長と共に段々と内側と外側の情報伝達が効率的に行われるようになり、感情をコントロールできるようになっていきます。
この情報伝達の効率化をミエリン化と言って、いわゆる「大人になる」という状態はミエリン化が進んで脳が成熟することを指しています。
思春期のうちにやっておくべきこと
脳が成熟して大人になることは、思春期の時に持っていた新しい事への探求心や感情に対する敏感さも、失っていくということです。
思春期は性ホルモンによって脳のシナプスが増え、あらゆる感受性が高まる時期です。
この時期に様々なチャレンジをしたり、周りの人と感情を共有したり時にぶつかり合うことで、子供たちは自身の能力や感性の幅を広げていきます。
もし、思春期の間にこのような経験を十分できないと、大人になってから能力の面でも感情の面でも様々な壁に当たることになります。
そのため、思春期の時期には失敗も含めてより多くの経験をしておくことが大切になのです。
ミエリン化による脳の成熟は、10代では終わらず、20代半ばから30才くらいまで続くと言われています。
思春期の経験を後から取り戻すこともできますが、その作業はより難しさを伴うため、やはり10代の頃からその時期にふさわしい行動や経験をしておくべきなのです。
親はそのための環境を用意してあげ、子供はなるべく素直に自分の望みを伝えてみてください。
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イルカの世界でも、若いイルカたちは群れを成して、大人たちが行わないようなやんちゃをするそうです。
細かいメカニズムに違いはあっても、どんな動物にも若いとき特有の習性があるということです。
女の子はお化粧をしたり、大人っぽいことをしたがるもの。
男の子はカッコつけたり、強さを自慢したくなるもの。
子供たちには、悩みながらもやりたいことをやって、素敵な青春時代を過ごしてもらいたいものです。
そして、スポーツでも音楽でもそうですが、人に対して響かない全力は無いものです。
親自身も不完全な人間ですが、少し我慢したり一歩引いてあげたりしながら、子供のために全力を尽くすことが、子供を正しい方向へ導いていきます。
思い返してみれば思春期は、赤ちゃんだった子供がハイハイをしたり歩き始めたりしながら、世界を広げていった時と同じなのかもしれません。
親は喜んでその後ろ姿を見守り、子は失敗をしながらも思う存分チャレンジしてください。
ビバ!思春期(^^)v