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小学生アスリートが将来のためにしておくべきこと
こんにちは。
ラクエルの鶴田です。
今回は、久しぶりにトレーニング文献を読んだのでそのご紹介です。
題名は、
『ストレングス&コンディショニングを早期専門化競技に統合するための実践的対策』
(英国カーディフ・メトロポリタン大学 青少年身体発達センター創設者Sylvia Moeskopsら)
野球の大谷翔平選手やボクシングの井上尚弥選手のように、現在トップレベルで活躍するアスリートの多くが、幼い頃からひとつの競技に専門的に取り組むケースが増えてきました(早期専門化)。
早期専門化にはメリットがある一方で、心身が十分に成熟していない若いアスリートにとってはリスクも存在します。
この論文では、小学生あるいはそれ以前から特定の競技に取り組む子供たちが、将来にわたって競技パフォーマンスを伸ばしていくために必要なポイントを提言しています。
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【目次】
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1.専門化が早まることのメリット・デメリット
2.一週間の練習時間の上限
3.多様な動きを取り入れることの重要性
・AMCSsの活用例
4.疲労度をため込まないために気をつけるべきこと
5.天才スプリント少年の今は…
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専門化が早まることのメリット・デメリット
近年では、サッカー、テニス、ゴルフ、水泳、体操、フィギュアスケートなど様々な競技で、指導内容や練習方法が高度になり、子供たちはよりハイレベルな環境でスポーツに取り組むことができるようになりました。
そのような状況の中で、小さなころから一つの競技に取り組むことは、より高いスキルを身につけることができ、周囲との競争の中で様々な学びを得る機会にも恵まれます。
その一方で、心身が十分に発達していない若年アスリートは、大人に比べると慢性疲労による怪我、オーバートレーニング、バーンアウト(燃え尽き症候群)などのリスクがより高いとされています。
また、若年アスリートに関する研究では、将来エリートレベルに達した選手の多くは、
- 他のスポーツも経験し、より高い年齢で競技を一本化した
- 若年の時は練習量が少なく、思春期後期になってから練習量を増やした
というデータも示されていて、子供たちが成長する過程でどのようにスポーツに取り組んでいくかが重要とされています。
一週間の練習時間の上限
日々の練習や試合の中では、ダッシュ&方向転換、ジャンプ、着地など、その競技に特有な同じパターンの動作が繰り返し行われます。
そのため、頻繁に使われる筋・腱・関節など特定の部位へ負担が蓄積していきます。
また、体力と同様に集中力やモチベーションにも上限があるため、適切な練習内容や練習量から外れてしまうと、心理的な負担も増加していきます。
「子供だから体も気持ちもすぐに回復する」というのは大人の思い込みで、オーバーユース症候群やモチベーションの低下を防ぐためには、成長途中にある子供の状況に応じた練習量のコントロールが常に必要とされます。
そのため、多くの研究者や長期的なアスリートの育成機関は、一週間の練習時間が暦年齢を超えてはいけないと提言しています。
6歳の子は週に6時間、9歳の子は週に9時間。
これが競技練習を集中して行って良い上限で、親や指導者による時間の管理が大切としています。
子供の上達の速さにはワクワクさせられます。
試合にもなるべく勝たせてあげたいものですが、アクセルと同じくらい、心身の回復のためのブレーキが必要になります。
両者のバランスが取れることによって、若年アスリート特有のリスクを下げ、結果としてスポーツの成績を高めることにもつながります。
多様な動きを取り入れることの重要性
小学生は、神経的な発達が加速する「ゴールデンエイジ」と呼ばれる期間の真っただ中です。
そのため、この時期に同じ競技の練習だけを繰り返し行うと、それ以外の運動スキルを伸ばす機会が失われる可能性があります。
これを防ぐために、文献の中では先ほどの一週間の練習時間の一部を、競技以外のトレーニングに充てることを推奨しています。
アスリートのトレーニングには下図のような競技運動スキル能力(AMCSs)と呼ばれる概念があります。
NSCA JAPAN Strength & Conditioning Volume29.Nunber6より
これは競技に必要な運動スキルを8つに分類したもので、これらをバランス良く高めることで競技レベルが底上げされるだけではなく、
- 傷害リスクの軽減
- トレーニングの単調性の解消
- 競技以外の総合的な運動スキルの獲得
といったメリットがあり、早期専門化によるリスクの軽減につながります。
また、子供たちは将来、急激に身長が伸びる時期が来ると、重心の位置が高くなる、手足が長くなるといった変化を経験します。
これらの変化に合わせて、競技力を落とさないため、あるいはケガをしないために新たな動作感覚を覚えていきますが、その時にもAMCSsの土台が広いほど有利とされています。
AMCSsの活用例
・テニスはボールを打つ「上半身のプッシュ」の動作を多用するため、反対の「上半身のプル(引く)」の動作を取り入れたトレーニングをする。
・体操は反復的な練習が大半を占めるため、「加速・減速・再加速」を含んだ方向転換やリアクションドリルを取り入れる。
また、最近多くのスポーツ現場で取り入れられるようになった、アニマルムーブメント(動物を真似した基本動作のトレーニング)や、様々な条件の下でのタグゲーム(追っかけっこ)、脳トレ的な判断能力を必要とする運動なども有効です。
AMCSsを利用することで、子供たちは普段と違う動きを楽しみながら獲得することができ、競技練習に戻った時のパフォーマンスやモチベーションアップにも好影響があります。
疲労度をため込まないために気をつけるべきこと
若年アスリートは、疲労の蓄積によるオーバーユース傷害、運動スキル向上の鈍化、バーンアウト症候群などのリスクが高いとされています。
文献の中では、若年アスリート群を1年かけて観察した研究が紹介されていて、それによると怪我の発生は、その直前の時期に運動強度が高くなっていたタイミングで起こることが多かったそうです。
そのため、日々の身体的・心理的疲労を蓄積させないこと特に重要で、一週間の練習・トレーニング時間の管理に加えて、普段の練習や生活の中でも疲労の兆候が無いか確認することが求められます。
子供たちは学校でも家庭でも、大人が決めたルールに従って過ごすことが多いため、疲労について自ら申し出るという感覚を十分持ち合わせていないことが考えられます。
そのため、周囲の大人が
- 練習や試合でのパフォーマンス低下
- 意欲の喪失
- 無気力
- 不機嫌な表情
などのサインを見落とさずに、疲労の兆候が見られたときは運動強度を下げたり、練習内容を変える等の対策を行うことが大切です。
また、高い緊張を要する試合の後は、面白さに重点を置いたトレーニングをしたり、子供自身に何をするかを決めてもらうなどして、気持ちをほぐすことも有効とされています。
論文の中では、下図のような体操スクールで使用されている主観的運動強度の評価シート(sRPE)も紹介されていました。
NSCA JAPAN Strength & Conditioning Volume29.Nunber6より
これは、練習やトレーニングのきつさが10段階のうち、どれに当てはまるかを子供に書いてもらうもので、大人が意図した運動負荷と子供が感じている負荷にギャップが無いかを確認するためのものです。
(練習やトレーニング終了後30分、もしくは48時間以内に記入)
子供たちが持っているスポーツへの意欲を余すことなく注げる環境づくりはとても大切です。
そのためにも、観察や意思の疎通をこまめに行いながら、疲労に対するケアも十分行え状況を作りましょう。
天才スプリント少年の今は…
今回の論文を読みながら、数年前に話題になったアメリカの天才スプリント少年を思い出しました。
小学生低学年の小さな子が、大人顔負けのスプリントフォーム、ものすごい脚の回転スピードで走っている映像に度肝を抜かれました。
ただ、100Mという競技の特性上、このまま順調に伸びるのは難しいのではないかと思っていたのですが、今はアメフトでも才能を開花させているそうです↓↓
今回の文献を読んだ後だっただけに、あれだけの注目を集める中で、バーンアウトにならずに今もスポーツで躍動している姿が、なおさら輝いて見えました。
そして、さすがスポーツ先進国のアメリカだなとも思いました。
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一昔前の日本は、根性論に耐え得る強い体を持った人だけが、才能を開花させることのできる時代でした。
スポーツ科学の発達と共に、より多くの若年が自分の可能性にチャレンジできるようになっていくのは素晴らしいことです。
それぞれの自己実現目指して充実した日々を送りましょう。
頑張れ、未来のスーパースター!